世界の片隅でひっそりと呟く

アラフィフのサラリーマンです

アメリカの正義 〜アフガニスタンと南ベトナム〜

1980年代、私が10代の多感な頃にベトナム戦争の映画が盛んに作られた時期があります。『プラトーン』で感動した私は、当時たくさんあったレンタルビデオ屋でベトナム戦争映画を借りまくりました。『地獄の黙示録』、『フルメタルジャケット』、『ディアハンター』、『カジュアリティーズ』などなど。ちょっとエンターテイメントに走ってますが『ランボー』シリーズ、時代に翻弄されるベトナム人女性を主人公にした『天と地』などもベトナム戦争映画と言っていいかもしれません。中でも私のお勧めは、米兵と南ベトナム解放民族戦線のゲリラ兵の決して交わらない友情を描いた『グッドモーニングベトナム』と、ただひたすら過酷な戦場をリアルに描いた『ハンバーガヒル』です。

ハンバーガヒル』で思い出すのが、売春宿に行った米兵に風俗嬢が(正確なセリフは忘れましたが)言った「みんなアメリカの戦争で疲れてるのよ」という言葉に、米兵が「アメリカの戦争だと!? ふざけるな! お前らのために命懸けで戦ってるんだ!」と激昂するシーンです。

今思うとどちらの言葉も本心(映画ですけど)だと思います。米兵は北ベトナムの侵略から南ベトナムを守るために戦っているし、ベトナム人風俗嬢は別に守ってもらいたいとは思ってなくてアメリカが勝手に戦ってると考えてるから。

 

ご存知の方も多いと思いますが一応ここでベトナム戦争の構図を説明しますと、ソ連と中国に支援された北ベトナム軍とアメリカに支援された南ベトナム軍の戦いです。ソ連と中国は物資の支援がメインですが、アメリカ(とその同盟国)は大軍を送り込んで南ベトナム軍と一緒に戦っていました。正規軍の戦力は南側の方が上ですが、南ベトナムの領内には反政府勢力である南ベトナム解放民族戦線が存在しており、田舎の農民や都市の市民に紛れてゲリラ戦や爆弾テロを行っていました。

何故こんなことになったのかと言うと、元々ベトナムはフランスの植民地でしたが、第二次世界大戦終戦後にホー・チ・ミン率いる共産党系のベトナム人の軍隊が北ベトナムフランス軍に戦いを挑み、勝利してフランスを追い出したことが発端です。南ベトナムではまだフランス軍が健在だったため、一旦は北と南で別々の国家として独立し、後で統一選挙を実施して統一国家を作ることになりました。つまり北ベトナムベトナム人が自ら樹立した国家なのに対し、南ベトナムはフランスがお膳立てして作った国家だったわけです。当然、南ベトナムの政府や資本家などはフランス植民地時代そのまんま。どちらが一般庶民に人気があるかは明白ですね。なので選挙やっても負け確定な南ベトナムは約束を反故にして選挙やりませんでした。北ベトナムは怒って戦争が始まります。第二次世界大戦戦勝国になったものの大戦中に国土をドイツに占領されてたフランスには、もう南ベトナムを支援する力がありませんでした。そこで南ベトナムの後ろ楯としての地位をアメリカに肩代わりしてもらいます。ここから北ベトナムvs南ベトナムアメリカ連合軍の戦争になったわけです。

アメリカはこの戦争を共産主義の魔の手から南ベトナムを守る戦いと見ていました。アメリカ的には正義の戦争です。しかし南ベトナムの一般ピーポーは南ベトナム政府を支持していません。中には積極的に政府を攻撃してやろうという人達が出てきました。それが南ベトナム解放民族戦線です。映画の中で、森の中に掘ったトンネルに隠れて夜な夜なゲリラ戦を挑んでいたのがこの人達です。多分ですが、北ベトナム人も南ベトナム解放民族戦線の人達も共産主義の理想に燃えてたわけではありません。ベトナム人の政府を作ろうとしていただけです。何の理想もない南ベトナム軍は、国家に対する忠誠心などありません。給料貰うために雇われてるだけですから。そのため、アメリカからふんだんに武器を貰っていたのにも関わらず北ベトナム軍にもゲリラにも全然勝てませんでした。いくら軍を送り込んでも全然状況が良くならないことに根を上げたアメリカ軍が撤退し、南ベトナムは負けて消滅しました。

この教訓は、国民から支持されていない政府にはどれだけ援助しても無駄である、ということです。

 

ここでアフガニスタンです。南ベトナムは米軍撤退から首都陥落まで2年保ちましたが、アフガニスタンは撤収完了前に首都カブールが陥落し大統領が全財産持って逃げ出してしまいました。米軍が20年も駐留したのに、居なくなったら正にアッと言う間に崩壊です。これもベトナムの教訓どおり、いや、それ以上の教訓です。

 

今まで何度かそんな評論を読んだことがありますが、どうもアメリカは日本で成功したから他の国でも同じ方法で行けると思い込んでるフシがあります。民主主義を高く評価し過ぎてると言いましょうか。自分とこの国が最初から民主主義だったので、世界中どこでもすぐ民主主義国家を作れると思い込んでるような。日本は戦前から国際連盟常任理事国を務めた強国の一つであり、大正デモクラシーを経験して民主主義の土壌のある国です。国民国家を作ったことのない国を一旦焼け野原にして、そこからいきなり民主主義国家を作ろうとしても上手くいくわけありません。イスラムの教えが骨の髄まで染み付いている人達に突然「女性も社会進出させるべき」と言ったところで「そうだそうだ!」となるでしょうか? とりあえず最初はアメリカが自分達に都合の良い人を指導者に仕立てることになりますが、そんな人を一般庶民が支持するでしょうか? ホー・チ・ミンのような誰もが知ってる英雄じゃないとダメでしょう。

 

ではどうするか。

過去の事例から考えると、成功の可能性があるのは韓国の例です。35年間の日本統治時代はありましたが、朝鮮戦争で一旦焼け野原になっています。初代大統領の李承晩がアメリカに擁立されたこと、政権の支持層が地主や資本家階級であること、腐敗していたこと、軍隊に忠誠心が無かったことなども南ベトナムと同じです。北には南のシンパはいないのに南には大勢の北のシンパがいることも同じです。にも関わらず北に飲み込まれずに先進国になるまで発展することができたのは、朴正煕がいたからではないかと私は考えます。清廉な愛国者であり、経済発展、国民生活の向上を考える指導者が強権を握ったことが成功の最大の要因なのではないかと。

30年以上も前に自力で民主主義を勝ち取ったフィリピンの現状を考えると、重要なのは民主主義ではないのではないかと。特に部族の掟に従って生きている人達の国を国民国家にしようとするならば、民主主義より強力な独裁政治の方が良いのではないでしょうか。もちろん大抵の独裁者は腐敗してるのでダメダメですが、もし有能で清廉で愛国心に燃えた人物がいるなら民主主義の前段階としてその人に指導者になってもらった方が良いのではないか、と思います。